訪れるべき和歌山県

「地球1個分の暮らし」オフグリッドを体験できるゲストハウス in熊野

ゲストハウス IKKYU

わたしたちの生活に欠かせない「電力」。
今あなたがこの記事を読んでいる端末も、電力で動いていますよね。

2018年の北海道地震での大規模ブラックアウト、2019年の台風15号による千葉県内での長期間停電など、大きな規模での停電のニュースをここ最近よく耳にする気がします。

和歌山県のある紀伊半島は台風の直撃を受けやすいところ。私の自宅も台風や大雨で停電したことが何度もあります。この夏も、大雨の影響で停電しました。

大規模なものではなく近所のみ、かつ1時間程度の停電でしたが、
「エアコン止まっちゃって暑いから扇風機使おう…あ、でも扇風機も電気が要る」
「Wi-Fiがないと仕事ができない…あ、でもそれ以前にパソコンが点かない」
というように、自分たちが「電気のある生活」に慣れすぎているという事実に気づかされる機会となりました。

「停電」のリアル

自宅や職場はもちろん、通勤中などに停電が起こることを想像したことはありますか。

ライトが点かなくなるので、当然部屋は暗くなります。

パソコンや電話、ファックスなども動かなくなります。

スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどは充電がある限り使えますが、充電がなくなってしまえば使えません。

エレベーターに乗っている場合、出られなくなります。

空調が切れるため、夏はとても暑く、冬はとても寒くなります。

電車は電力で動いていますから、電車で移動することはできません。

高層ビルなどでは、水の汲み上げポンプが使えなくなることがあり、そうなると電気だけではなく水も使えなくなってしまいます。

どこに思いを巡らせても、「電気は必要不可欠なもの」という結論しか出てきません。

和歌山に、電力を自給するゲストハウスがある!?

「オフグリッド」という言葉をご存じでしょうか。

「グリッド」とは電力会社の送電網のこと。その送電網と繋がっていない状態のことを「オフグリッド」と表現します。電力会社の送電網と繋がっていないということは、電力会社の電気が使えない、ということです。

和歌山県新宮市熊野川町には、「オフグリッドゲストハウス ikkyu」があるのです。

電力会社から電力の供給を受けていないゲストハウス…一体、どういうことでしょう?

電気の供給は太陽光パネルで

ikkyuは築70年の古民家を改装して作られたゲストハウス。ここでは屋根の上の太陽光パネルですべての電気をまかないます。

「電気を引いていない」というイメージを払拭しきれず、期待と不安が半々という状態でikkyuを訪れた私たち。「デジタルデトックス」まで覚悟していたのですが、その覚悟は良い意味で裏切られました。

ikkyuでの滞在中、明かりはもちろんのこと、ネット環境や電源確保などに全く不自由がありませんでした。蓄電池も設置されていて、昼間に太陽光で発電した電力を夜に使うことができます。

「電力がここで作られ、ここで消費されている。全く不自由がない」という状態を目の当たりにすることで、「電気とは?」「インフラとは?」ということに思いを巡らせずにはいられませんでした。

電力会社から供給される電力と、ikkyuのオフグリッド電力。どちらを利用しても、明かりを点けたり、充電したり、インターネットに接続したりすることができます。しかし、普段何気なく使っている電力と、ikkyuに滞在している間に使った電力の価値は、大きく異なるように感じました。

電気以外のエネルギーも自給

太陽光パネルによる電力の自給はもちろん、ikkyuではそれ以外のエネルギーもできるだけ自給できるように作られています。

ボイラーやストーブ、コンロやお風呂は薪を使用。調理用のコンロは薪とガスの併用です。

コンポストトイレ

ikkyuにはトイレが2つありますが、いずれも水洗トイレではなく「コンポストトイレ」です。コンポストトイレは「バイオトイレ」とも呼ばれ、微生物の力で排泄物を肥料に変えるトイレです。ここでは水も電気も使わないタイプのコンポストトイレを導入しています。

運営しているのは元「地域おこし協力隊」の森さん

このオフグリッドゲストハウスikkyuを運営しているのは、熊本県出身の森雄翼(もりゆうすけ)さん。幼い頃に水俣病について学んだことをきっかけに環境問題に興味を持った森さんは、このゲストハウス運営以外にもさまざまなことに取り組んでいます。

例えば、ikkyuに導入されているコンポストトイレはなんと森さん自身が製作したもの。試行錯誤を経て従来のものより価格を安くすることに成功し、受注販売も行っているそうです。また、現在は薪ボイラーの商品化に向けての活動も行っているとのことでした。

森さんが目指す「地球1個分の暮らし」とは

エコロジカル・フットプリント

人は日々生きていく上で、地球上の資源(エネルギーや食料など)を消費します。しかし人は大抵の場合、「自分がどれくらいの資源を消費しているか」「自分が排出した二酸化炭素をどれくらいの森林が吸収してくれているのか」などに思いを馳せることはありません。

人がどのくらい自然資源を消費しているのかを、「人が消費している資源を生み出すために必要な土地の大きさ」として数値化したものが「エコロジカル・フットプリント(エコフット)」と呼ばれる環境指標です。

世界全体で計算すると「地球1.7個分の土地」を、日本国内で計算すると「地球2.8個分の土地」を人が消費している、という結果が出ています(2019年)。いずれにせよ、地球の未来を食いつぶしている、という状況なのです。

これを「地球1個分」に抑えると、わたしたちの子孫が将来必要とする資源を損なうことがなくなります。そして社会の持続が可能になります。森さんが目指している「地球1個分の暮らし」とは、現在だけではなく未来を見据えたライフスタイルなのです。

社会やテクノロジーにも大いに頼る

ただし、森さんは「快適性を損なうのであれば、電力会社からの供給も併用した方がいい」とも言っており、「完全オフグリッド」「完全自給自足」にこだわっているわけでは決してありません。「地球1個分の暮らし」を目指しつつ、無理のない範囲で積極的な取り組みを行っている、という印象でした。

また、森さんは和歌山県田辺市本宮町、熊野本宮大社のそばに2件目のゲストハウス「noco」もオープンさせています。こちらはオフグリッドではないのですが、屋外にキッチンやこたつが置いてあり、非日常の生活を味わうことができます。

nocoのこたつ

次の世代へ環境をつなぐ

人は、自然資源を消費せずに生きていくことはできません。普段使っている「電力」「水」などはもちろん、1日3回の食事も資源の消費です。どれも当たり前すぎて、「自然資源を消費している」という自覚すらなく、日々は過ぎていきます。

「オフグリッド」「地球1個分の暮らし」などの概念を知った今こそ、私たちの生活を少しだけ見直すチャンスなのかもしれません。

極端に節電する必要はありません。まずは、普段つけたままにしている明かりを、どこか一ヶ所だけ消すことからはじめてみませんか。

森さんは様々なエコな暮らしを実証・発信されています!YouTubeとブログもぜひご覧になってみてください!

YouTubeチャンネル ecoバカクリエイション 
ブログ ecoバカ実験室

※取材は2018年秋に行いました。ikkyuは2019年10月から長期休業中です。
ikkyuの最新情報はこちらからチェックできます。
guesthouse ikkyu

今回ご協力いただいた方
  • guesthouse ikkyu森 雄翼

    http://ecobaka.com/

    1989年熊本出身。和歌山県熊野に在住(2020年石川移住予定)。youtubeではeco暮らしのためのDIY実験をメインで発信しています。今後は日本中のオルタナティブな暮らし/活動をされている人々を取材したりします。 ●BLOG「ecoばか実験室」 →eco暮らしのノウハウを発信中!月間5万PV http://ecobaka.com/ ●オフグリッドゲストハウスikkyu →電力自給のオフグリッドな古民家宿。熊野古道近く。 http://offgrid.fun/ikkyu/#.XY9R-JP7SYU ●コンポストトイレ「Relife」 →それまで非常に高額だったコンポストトイレの相場(=25万円くらい)を切り崩した格安木工コンポストトイレ。大小分離と攪拌レバーで電気・水不使用でも匂わない! http://offgrid.fun/relife/#.XY9SipP7SYU ●twitter https://twitter.com/yusukemori87