
訪れるべき和歌山県
人を大切にすることで見えてきた!農業とICT、そして新しい地方の形
秋津野ガルテン

あなたは「農業」という言葉に、どのようなイメージを持っていますか。
農家の人が手間暇かけて育てて収穫した農作物を食べている、という認識はあっても、その具体的な作業までを想像できる人はそう多くはありません。
和歌山県田辺市上秋津のグリーンツーリズム施設「秋津野ガルテン」では、「農業体験」を通じて農業についての理解を深めることができます。そして2019年、その秋津野ガルテンではICTを利用した新たな試みがスタートしました。
「農業」と「ICT」。
相反するもののようにも思えますが、実はこれらと「人」が組み合わさることで、新たな「地方の形」が見えてくるのです。

年中柑橘類が収穫できる地区、上秋津
秋津野ガルテンがある田辺市上秋津地区は、和歌山県内でも屈指の柑橘類の産地。和歌山県では特に、冬にこたつで食べるような温州みかんの「有田みかん」が有名です。
しかしここ上秋津で栽培されている柑橘類は、その温州みかんだけにとどまりません。
- バレンシアオレンジ
- グレープフルーツ
- 不知火(デコポン)
- ゆず
などのように、名前を聞いたことがある柑橘類はもちろん、
- 仏手柑(ぶっしゅかん)
- 三宝柑(さんぽうかん)
- 晩白柚(ばんぺいゆ)
- セミノール
など、ほとんど聞いたことのないような柑橘類も含め、約80種類もの柑橘類が上秋津では栽培されているのです。
温州みかんの収穫時期は秋~冬ですが、春先に収穫できる柑橘類もあれば、夏に収穫するものもあります。つまり、上秋津地区においては、一年を通してどの時期でも収穫できるみかんがある、ということ。この地の利を活かし、秋津野ガルテンでは柑橘類をメインとした農業体験を随時開催しています。
秋津野ガルテンの敷地内にみかん畑があるわけではありません。この上秋津地区の農家と連携し、その農家の畑や施設で体験を行います。収穫はもちろん、選果や袋詰めの作業を行うことも。また、時期によってはみかんではなく梅やその他の農作物関連の作業をすることもあります。一般的な「果物狩り」などとは一線を画した、農業のリアルと向き合える貴重な体験です。
上秋津地区をまるごと楽しめる秋津野ガルテン

この秋津野ガルテンは2008年11月に誕生したグリーンツーリズム施設。2006年に上秋津小学校が移転したため、その旧木造校舎をそのまま利用して運営されています。
運営母体は「株式会社秋津野」。2007年秋に、地域住民489名の出資で設立された農業法人です。出資者が地域住民なら、労働者も地域住民。この上秋津地区がまさに一丸となって運営しているのがこの秋津野ガルテンなのです。
敷地内でまず目につくのは地産地消のレストラン「みかん畑」。
上秋津地区の住民が、地元で採れる新鮮な食材を使って「これぞ地元の味」という料理を数多く作り、それをバイキング形式で提供しているレストランです。
旬の野菜の天ぷら、野菜の「たいたん(=炊いたもの=煮物)」、サラダ、カレー、特製みかんジュースなど、その時々でメニューはさまざま。
木造校舎を眺めつつノスタルジックな雰囲気の中でいただくスローフードは、身体に優しく染みこんできます。
また、スイーツ体験工房「バレンシア畑」も人気です。ここではスイーツづくり体験だけではなく、里染やドライみかんでのハーバリウムづくりなども体験できます。

旧校舎の教室にはプロジェクターやエアコンなどを新たに設置し、セミナーなどをすることができる研修室へ改装。レンタルスペースとして貸し出されています。
農業体験、スイーツ体験、里染体験など、この秋津野ガルテンでは多くの「体験型コンテンツ」があります。また、宿泊施設もあるため、宿泊して複数のコンテンツを楽しむことも可能ですし、「宿泊研修」を行うこともできます。
「上秋津に長く滞在し、ここならではの体験を存分に楽しんで欲しい」という地域住民の意向が反映されているのでしょう。

農村とICTオフィスの掛け合わせが生む相乗効果
オープンから10年経った2018年2月、秋津野ガルテンの敷地内にひとつの新しい施設が建ちました。ICTオフィス「秋津野グリーンオフィス」です。また、秋津野ガルテンには和室の宿泊棟しかなかったのですが、このオフィスの建設と同時に洋室の宿泊棟も新設されました。いずれも「都市部で働く人のサテライトオフィスとして活用してもらう」ことを前提に整備されています。
田辺市の隣町である白浜町にもサテライトオフィスは多くありますが、この秋津野グリーンオフィスは「地域作り」から派生したICTオフィス。白浜のそれとはコンセプトが異なります。
「緑豊かな農村で働く環境を都市部の企業に提供する」というだけではなく、「都市部の人たちとこの地域の課題を共有し、アイデアの交換などができるような『繋がり』を作りたい」という地域の想いが形になったもの、それがこの秋津野グリーンオフィスなのです。
都市部の人たちとの意見交換を通じて、地域住民が気づいていない地域の魅力を発見したり、先進的な技術を農業に導入することで農作業の効率化を図ったりすることが期待されています。
「例えば、今は普通の農業体験を楽しんでもらっているけれど、これから技術が発展していって、『最先端ロボットでの草刈り体験』ができるようになれば、それもこの地域の一つの価値になるかもしれない」と玉井会長(インタビュー時は社長)は語り、上秋津の住民と都市部の人々が一緒になって生み出す未来に夢を膨らませています。
上秋津の資源は「人」

玉井会長は、「地域づくりに重要なのは、何よりも『人』です」と語ります。
みかんや梅などの農業資源や廃校を利用した秋津野ガルテン、秋津野グリーンオフィスという場所があっても、それらをどのように活用し、運営していくかを考えるのはあくまでも「人」だからです。
上秋津には、1957年に設立された「社団法人上秋津愛郷会(現在は公益社団法人)」という地域作りのための組織があります。そのため、「自分たちみんなでやろう」という意識がもともと強い地区だったのです。
60年以上も前から地域の人々が手を取り合ってきたという歴史が、この秋津野ガルテンや秋津野グリーンオフィスにまで繋がっています。
上秋津に昔から存在していた「地域住民同士の繋がり」、そして通信インフラが発達した現在新たに得た「都市部の人との繋がり」。これらの相乗効果で、上秋津地区はさらに大きく変化していくことでしょう。
「人との繋がり」を考える
当たり前ですが、どこにでも「人」は存在します。だからこそ「人との繋がり」について敢えて考えることはほとんどありません。
上秋津の取り組みを知ったことで、自分の周りの「人」、そして自分とその人との「繋がり」について改めて考える機会となりました。
そして何より、自分という「人」も大切にしなくては、と気がつきました。