企業内教育の限界を突破する越境学習。アウェイな環境でこそ育つ新時代のリーダーシップ

2021年2月24日(水)に、オンラインセミナー「異業種交流×地域課題解決で次世代リーダーを育成する」を開催いたしましたので、その模様をお伝えします。人事部のご担当者をはじめ、様々な業界、職種の方に参加いただきました。
既に多くの企業では「異業種交流」「他流試合」の要素を持つ研修を採用し、社外から刺激を取り入れる仕組みを実践されております。一方で、社外で個人が得た学びや刺激をどうやって組織に取り込んでいくべきか、多くの企業が共通の課題を抱えています。
キーワードは「ケーススタディではない、生きた課題に取り組む経験」です。
経験者自身の気付きや行動を中心に、企業の人事・教育担当の皆様と社会課題への取り組みやこれから取り入れたい学びについて意見交換を行いました。
SDGs時代のリーダー、育成のカギはアウェイでの体験
JMAMは、イノベーションを推進する人材の育成に向けて、地域のユニークな体験を掘り当て、”学び”のプログラムに組み立てる挑戦を行っています。セミナー冒頭、川村が”次世代リーダーの育成”と”地域課題解決”を紐づける新しい学びのコンセプトを語りました。

株式会社 日本能率協会マネジメントセンター
新事業開発部長
川村 泰朗
SDGs時代の新しいリーダーシップの形
「リーダーシップ”とよく一言で表現されますが、その意味するところは変わってきています。バブルが終わる頃までは強い個性の”カリスマ型リーダーシップ”、俺についてこいというタイプのリーダーがとても良いリーダーであるとされてきました。
2000年代になり、一人ではなくチームでリーダーシップを発揮しようとする動きも現れました。例えばチームマネジメントとして、部長だけでなく部長と課長、係長が分担してリーダーシップを発揮する”シェアードリーダーシップ”と呼ばれるものです。
そして、現在議論されているのは全員がリーダーだと言われるものです。SDGsや地方創生などの多様な社会課題に対して、一人一人が自分事として、自分が出来ることを主体的に推進していかなければいけません。” インフォーマル・リーダーシップ ”とも呼ばれ、まさに研究が始まり、書籍なども発行され始めた段階にあります。」
アウェイでの体験で、従来の企業内研修の限界をフォローする
「この変化の中で、企業の人材育成のテーマがどうあるべきかを考えます。これまでは、いかに企業が儲けるかというテーマが置かれていましたが、これからはいかに社会と共生していくかが重要になります。つまり、社会課題解決とビジネスをどうマッチングさせていくかを求められています。リーダー教育も同様に、”カリスマ型のリーダー”をあるべき姿として示すのではなく、自身の経験を通じて学習していく「経験学習」型の教育へ変わっていくと言われています。
一方、これまでの企業内教育の限界も言及され、固定観念や暗黙の前提から脱するための教育として”越境学習”が注目されてきています。越境学習とは、普段の自分の会社や職場(ホーム)と、社内用語が通じない等の共通の前提を持たない状況(アウェイ)に行ったり来たりすることで刺激を受け、学びを得ることです。
つまり、越境学習のメリットは、アウェイに行くことで普段触れ合うことのない人たちや様々な課題に向き合うことで、多様な物の見方ができるようになる点です。OJTやOff-JTは、目の前にある物事に対して合理的に判断し遂行できる人材を育てる教育です。”知識を使う”能力を育てるとも言われています。一方、越境学習は「対話的自己(多元的自己)を持つことで、全体を考慮した根源的な解決ができる人材を育成する教育です。”知識を創造する”教育です。新しい価値観や多様な物の見方を育成することができます。」
次世代リーダー育成 x 地域課題解決” 学びの事例紹介
このように、ホームからアウェイに飛び込み、他の日常での体験を通じて発想の転換や思考を柔軟にする学びを“越境学習”といい、新しいリーダーシップの育成を支えるものです。セミナーでは、続けて地域で学ぶ越境学習プログラム『ことこらぼ』の概要と参加者の声を紹介した。
地域にある課題そのものが教材 次世代リーダー育成研修『ことこらぼ』
「『ことこらぼ』は、都市部の企業の社員と地域事業者とチームを組んで、一緒に地域課題を解決するプログラムです。多様な業種、職種から集まった都市部企業の社員がチームとなって、地域事業者の課題を解決し、想いを実現する手助けを行います。
例えば森川さん。(以下、写真2枚目) 和歌山県田辺市にある食品卸の跡取りで、彼女は地域の特産である柑橘を使ったアイスクリームを作りたかった。アイデアはあるが実現できなかったので、都市部の社員と一緒に製品化に取り組みました。今回、事例発表をしていただくお二人はどちらも森川さんのチームで活動していました。
他にも表具を使った新しい付加価値の開発を行った事例と、木材を使ったサプライチェーンのみなさんと一緒に虫食いで傷のついてしまった木材(あかね材)を活用した新製品の開発を行った事例があります。 」
※詳細はこちら
→『ことこらぼ』プログラムの概要 https://hatarakikata.design/koto-collabo/
体験談①:越境することで自組織の良さと課題が見えた
コープデリ生活協同組合連合会 人材開発部 岡田雅子さん
「“組合員のくらし”と“地域”のニーズを協同の力で実現し、連帯の推進していくというコーポレートビジョンと『ことこらぼ』のコンセプトが合致し、参加をしました。研修の過程では、様々な異業種の方が集まり、色々な価値観でアイデアが出ていました。その中で、意見の違いが発生したとしても、意見の衝突はなく勧められた。チームメンバーがお互いに相手を尊重し、否定や拒絶などせず、自分の意見も主張する関係がつくれていたのだと思います。
普段働いているコープでの自分(ホーム)と比べると、田辺で活動している自分にはアウェイに感じることがありました。ホームとアウェイを何度も行ったり来たりすることで、価値観の振れ幅を楽しんでいた。 田辺では固定観念、既成概念にとらわれない思考ができた。さまざまな価値観の人と出会い、その人たちの価値観を認められるようになりました。
組織の外に出たことで得られた経験から、組織に取り入れたい、強化したい課題が明らかになりました。プログラムが終わって振り返ることで、自組織の良さを再確認することができました。個人としても、これまでの言われたことをやっていた職務とは違い、自分でも判断しながら仲間と協働して意思決定し行動する主体性を発揮する経験ができました。
価値観の振り幅が大きくなったことがきっかけになり、プログラムが終わった後の生活の中で、あらたな自分の価値観もつくりあげることができました。「対話」を重んじ、相手を理解尊重する姿勢を、職場でもプライベートでも示せるようになったことが大きな変化だと考えています。 」
体験談②:人を巻き込んだチャレンジがしやすくなった
株式会社スコープ 本田博通さん
「研修前は、会社の今後に不安を感じて、何とかしなければと強く思っていました。社内の色々な人に対して「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいい」と比較的言うが、賛同者を得るのが苦手でした。例えば、役員ひとりひとりと飲みに行って想いを伝えるが、その後の進め方があまり上手ではなかったと思っています。そのような状況の時に総務人事の本部長から声をかけてもらい、田辺市に縁を感じて『ことこらぼ』に参加しました。
研修中、特に印象的だったのは、地域の人では肩書が不要だということでした。個人のつきあい、情熱で対話する地域でした。研修においても、企業の看板を背負う感覚ではなく、一人一人が向き合う場面が多かったように思います。また、普段全く会わない多様な人たち、全く知らない地域の方とのチームを組むことで、自分が役に立てるところ、役割を強く意識するようになりました。全然知らない人と一緒に仕事を始める中でのポジショニングなども学べたと思います。
研修を終えてから振返ると、以前よりも他者を巻き込んでチャレンジすることがしやすくなったと感じています。アイデアが思いついたあとの説明が上手くなり、色々な人の力を借りることが多くなったと実感しています。 また、新しいものを生み出すアウトプット、実践が増えました。これは研修中にアイスクリームの新製品を実際に試作・販売テストできたことが大きいと思います。共創の意識も強くなりました。
組織に戻ってから、地域課題を解決することをサービスにしたCreative communityを始めることができました。実際にコミュニティを作り、地域課題の解決に向けた活動にチャレンジできています。森川さんとも継続的に関係を持ち、EC用新商品開発のアドバイスをするなどの活動を続けられています。 」
行動することが突破口になる
プログラム後にも具体的な活動をされているお二人への質疑応答を一つ取り上げます。
ーーー都市の会社が地域に入ってプログラムをやる上で、使っている言葉の違い、社内用語になっていた面があったと思います。コミュニケーションの面ではいかがでしたか?
岡田さん
「私自身が所属している組織に「地域の声をしっかり聞こう」という組織風土があったので、違和感はそこまでありませんでした。一方、事業者のなんとかしたいという想いがとても強かったので、想いを聞き取りつつ、商品を販売する上でアイスを食べる人(ユーザー)の視点にも立とうという視点転換の機会を作ることが大変ではありました。強い想いをしっかり見える化・共有化する過程が非常に良かったと思っています。違和感というよりは、価値観の違いを楽しんでいました。」
本田さん
「最初、お互い知らないので距離を感じていた部分がありました。特に地域の方は、企業の規模が違うという意識を強く持たれていたように思います。「私たちは地域の小さな会社だが、首都圏から大きな会社の人たちがきた!」というイメージが先行してギャップができ、話が合わない、恐縮しているところなどがあった。自分たちはそういうつもりで行ってるわけでないし、地域の人も、距離を置いているつもりはなかったが、実際には距離が出来ていることがありました。そこで、プログラムの時間にとらわれず「いいや会いに行っちゃえ」と実際に会いにいくことが突破口になったと考えています。
結局、今の時代でいうとオンラインも大事だったり、Zoomで話をすることはあると思いますが、時には思い切ってリアルに行った時にも距離が近くなる、縮む瞬間があったと思います。」
課題は「自分ごと化」
セミナー後半では、参加者同士で少人数のグループを作り、各社の取り組みやこれまでの内容を受けての感想などを自由に対話しました。ディスカッションの内容の一部を紹介します。
サプライチェーンの全体像を想像できるような体験で行動が変わる
・メーカー ダイバーシティ推進担当
「弊社でも異業種交流や社会課題に取り組むプログラムを取り入れています。とても好評で、参加した人は、そのNPOなどのメンバーになって支援するなど活動が続く事例も多くあります。弊社はメーカーなので、全ての社員が製造から販売までのサプライチェーン全体すべてが見えているわけではないので、地域事業者との協働で全体を体験することができるのが、視野を広げる人材育成に効果的であると思います。」
・販売 人材開発担当
「地域密着を重視して店舗展開を行っており。現状でも地域商店街との連携で、森林活動家と協働して子供向けのイベントを実施することがあります。森林・木材も大きなサプライチェーンの中にあることを考えると、その体験から自社で取り扱っている商品についても別の視野から価値を捉えなおすことができると思います。越境学習には、そういった効果があると考えます。」
自分ごと化することで「楽しかった」では終わらない経験ができる
・食品 SDGs推進担当
「CSR、SDGs、異業種 越境体験が、普通に勤務している人には自分と距離が遠すぎると感じているのではないかという課題感があります。それには、いかに自分事にしてもらうかが重要だと考えています。せっかく研修に参加しても「よかった」「楽しかった」で終わってしまうと非常にもったいない。価値観や考え方が変わる経験がどれくらいできるか、が重要だと思う。」
・製造業 人材開発担当
「社会貢献としての共同開発や共同研究はすでに弊社でも取り組んでおり、実際に地域とのつながりからビジネスが生まれています。それらの業務に直接携わっている社員が成長していることから、越境学習の効果は共感している。 直接関わらない社員を対象にした環境イベントなどに越境学習の要素を取り入れ、自身の担当業務以外の全社的な動きも『自分ごと化』することができれば、会社としてイノベーション人材を育てられるのではないかと考えています。」
総括:社外で学びたいと思う社員は多い。お互いの想いを結びつけたい
岡田さん
「自分の組織の中、身近なところだけでなく、地域や異業種との交流によって、自分の組織とは違う文化に触れることが重要だと改めて感じました。その後、どんな小さなことでもいいから、自分の身近なところで視点を変えてみよう、行動してみようというキッカケにつなげることも同様に大切です。周囲の人に伝えたいと改めて思いました。」
・本田さん
「自分は人事の立場ではないが、今回人事の方の話をたくさん伺えて、改めて自社の人事への感謝の気持ちが増しました。私も会社の中で色々相談を受けていく中で、『ことこらぼ』のような異業種交流に挑戦したいと思っている人はすごく多いと感じています。人事の方が持っている熱い思いと、社員の思いがうまく結びつけられるとよい活動につながるのだと思いました。」
・川村
「それぞれの会社でCSR活動や社会貢献活動を様々やられていることを再認識しました。関係する企業での活動と、まったく縁のない地域の活動に入っていくことは、まったく違うことだと思います。その理由は、認識のギャップにあると感じています。
派遣する都市部の企業側は、社員にリーダーシップを身につけて戻ってきてほしいと意図しています。一方で、地域側はつながりや関係人口が増えることなどを意図しています。お互いの目的が異なる状況の中でも、まったく背景など違う人たちが、”地域課題の解決”という同じ目的に向かって活動するチームになった時、その活動はサスティナブルになっていきます。地域の活動は継続性に課題があることが多いが、こういった活動は金額は小さくとも継続した活動になっていくと思います。企業のCSR活動なども、SDGSのゴールなどと組み合わせていくと、より事業に結びついた活動になると感じました。」
当日のプログラム
◆第1部 はじめに 15:30~15:40
・本セミナーのゴールと流れの認識あわせ
・ツールの利用方法を確認
◆第2部 理論や事例のインプット 15:40~16:20
・異業種交流を効果的に作る 越境学習の考え方とプログラム紹介
・昨年度プログラムの参加者2名によるトークセッション
※人事・参加者双方の立場から「実際どうなの?」をお伝えしました。
◆第3部 対話セッション 16:20~17:30
・昨年度プログラムの参加者とみなさまでのグループディスカッション、質疑応答
・みなさま同士での少人数グループディスカッション