ファクトフルネスを体感する越境学習。捕鯨でゆれる町で考える、解決困難な課題への取り組み方

趣旨
2020年11月18日~11月21日にJMAMラーニングワーケーション『here there』(※)のモニターツアーを実施しました。今回のモニターツアーは、thereプログラムが展開される予定の4つの地域で、実際の催行前に、人材開発のご担当者・CSV経営に関心のある経営者・「地域で学び、はたらくこと」に関心のある個人の方などに『here there』を体験していただくために開催いたします。
(※)「here there」とは?
東京をはじめとした都市圏での学びを(hereプログラム)ベースに、国内外の様々な地域での独自のプログラム(there特別体験プログラム)を相互に体験し、座学では得られないリアルな体験による学びと、バックグラウンドが異なる人たちとの交流を通じて内省し、自ら考え行動するイノベーションを推進する人材育成のための新しい学びのプログラムです。
https://herethere.jp/about
there特別体験プログラムの背景と狙い
越境学習ー境を越え、往来する学び

普段関わることの少ない、バックグラウンドの異なる異業種・異地域の人々(他日常)との対話や協働。これを通じて、自分の常識の枠組みを柔軟にします。日常と他日常の往来が学びの還流を促します。 詳しくはこちら:https://hatarakikata.design/news/539/



活動報告
1日目: 「くじらの学術研究都市」の視点で太地町のリアルを知る


①まずは太地町役場にて、町の全体像と、くじらの学術研究都市構想のお話を伺いました。30年かけて、人と鯨類の関わり方のこれからを町が描いていること。一方で、町には今でも批判の手紙がたくさん届くという現実を目の当たりにしました。

②漁協が運営する道の駅たいじでは、鯨やいるかを安く食べることができます。古くより町と漁協が密接に関わりながら、くじらの町太地が成り立つ。その背景は、現地に行くからこそ見えるものでした。

③太地は和歌山県でも一番小さな人口3000人ほどの小さな港町。主要な場所を徒歩で移動することで、町の細部に宿るくじらとの関わりを観察しました。自身の目で観察することの大切さに気づきました。

④くじらの博物館へ。学芸員さんの案内の元、歴史・生態・飼育と異なる3つの観点からくじらと太地のかかわりを紐解くことで、なぜ太地がくじらと深く関わるようになったのか、深く理解できました。

⑤太地では追い込み漁によって珍しいいるかの飼育に成功しています。一方で捕獲されたいるかはショービジネス用途で販売され批判されています。ひとつの事実も解釈は多様で、生で触れることで、どちらにも正しさがあることを感じもやもやしました。

⑥the coveの舞台となった浜で、内省の時間。浜の上には交番が立ち、例年多くの活動家が訪れる場所です。入り江を眺めながら、それぞれの正しさがぶつかり合う、答えのないもやもや感を味わいました。
2日目: 「捕鯨/漁業/生業」の視点で太地のリアルを感じる、知る、話す


①早朝。早起きして、いるか追い込み漁の出港を見学しました。町にとっての日常を五感で感じた貴重な時間でした。

②テレワークの時間。アクリルボードで密対策を行ったコワーキングスペースで、自身の日常に戻ることで、普段の日常と今自身がいる他日常の対比が鮮明になりました。

③漁協・漁師の方々との対話の時間。漁師としての生き方への誇り、愛護団体への戸惑いと怒りなど、目の前の人の言葉で聞くと感情が揺らぎました。自身が当事者に変わる瞬間を体験しました。

④捕鯨史研究者の櫻井さんとのフィールドワーク。捕鯨の町vs反捕鯨という表面的な理解ではなく、双方が持っている常識、世界観、考えを互いによく知り、関わることの大切さを実感しました。

⑤歴史の時間軸×海外の視点と、時間と場所の多角的なお話が伺えて、太地の歴史、世界の中での見られ方など、視野が広がりました。昔の漁師さんたちが見た海や景色を体感でき、想像が広がりました。

⑥くじらを中心に、異なる考えを持つ多様な人が関わる町。事実を様々な角度から五感で捉えることは、異質なものがお互いに共存するために大切なのではないか。高台から湾を眺めながら、ぼんやりとそんな問いが浮かんできました。
3日目: 今、太地の人がくじらや捕鯨をどう捉えているか、深く対話する


①3日目。有志でえび網漁のお手伝いへ伺いました。漁師の朝は早く、真っ暗な中ライトを頼りに網を回収し作業を始めます。なかなか味わえない、貴重な他日常を体感しました。

②漁師の方とのお話。幼い頃から海で玩具を買う小遣いを稼ぎ、海に育てられたこと、都会とは違うセーフティネットの在り方が印象的でした。イルカ漁時は「可哀想と思わない」、博物館のイルカは「本当にかわいい」など率直なお話が多く聞けました。

③関係案内人ジェイさんのご紹介による、反捕鯨活動家の方とのお話。活動家の中にも、様々な信念の方、温度感の方がいると理解できました。反捕鯨の方達のイメージは攻撃的と考えていましたがとても優しい方で、自身の先入観に気づきました。

④メインプログラムの最終日ということで、昼過ぎからは長い内省の時間。おのおの自由に町を散策し、3日間の体験から得たもやもやした気づきを自身の中に落とし込んでいきました。

⑤全体共有。簡単に解決しない組織や事業での課題は多々あるが、性急に臨んだり「問題解決」で周囲の感情を置いていかず、事実を現場で捉えて相手の立場から見える解釈を丁寧に汲み取っていきたい、という声が上がりました。

⑥本プログラムを通じて知り合ったメンバー、地域漁師の方とはプログラム後もSNSでつながっています。太地での出会いや越境体験が、社内で狭まっていた自身の視界を広げてくれました。
4日目: オプショナルツアー

参加者の声
―今回FACTFULNESSというテーマで太地町のラーニングワーケーションを実施しました。プログラム全体を通じて、どのような学びを得ましたか。また、太地での経験を自身の業務にどう生かしていきますか。
・予想していたことでしたが、外からだけでは本当にわからないことが多い。一次情報に触れない限り、問題に対する答えをわかった気になってはいけないと改めて思いました。人のうわさやフィルターを通して判断するのではなく、自分が見聞きしたことを信じていかなくては。 特に、こういった正解がない問題は、歴史的な背景、暮らし、経済的影響、などなど多面的に見ていかなくてはいけないし、定量的なファクトも含めて知っていく必要もある。また改めて、相手方の意見がなぜそうであるかも、同様に理解しなくてはいけない。 それぞれの立場が共存できることが大事。 (40代女性・PR・マーケティング)
・ 旅で関わった働くすべての人から、学びがあった。働くこと、をあらためて自身で考えるきっかけになった 。「対話」の奥深さを実感した。(20代女性・企画)
・過去、現在、未来を学び、対話をし、現在は解決しない問題であっても、自分の言葉で表現できる「自分の答え」を導くことの重要性を学びました。 (40代男性・旅行代理店・営業)
・関わり合いの大切さ。誰が今までどのように関わってきたのかは、一見ではわからない。どこかで知らぬ間に繋がっていることあるため、すべての人に誠意を持って応える。 仕事へ誇りを持つ。自分の仕事は誰かの役にたっていると思い仕事をする。 (30代男性・IT・エンジニア)
・簡単に解決しない組織や事業での課題は多々あるが、性急に臨んだり「問題解決」で周囲の感情を置いていかず、事実を現場で捉えて相手の立場から見える解釈を丁寧に汲み取っていきたい。ついビジネス書を読むことが多かったが、学びの場をもっと広げていきたいと思う。(30代女性・製造業)