ラーニングワーケーション

【解説】ラーニング・ワーケーションによる人材育成の可能性

【著者】
 株式会社日本能率協会マネジメントセンター 川村泰朗

【目次】
 1.ワーケーションへの関心
 2.ワーケーションの類型とラーニング・ワーケーション
 3.行政および自治体の期待
 4.和歌山県におけるフィールドワークと取組事例
 5.(まとめ①)リーダーシップと主体性の観点から
 6.(まとめ②)ラーニング・ワーケーションと越境学習の観点から
 7.ラーニング・ワーケーションの普及に向けて

1.ワーケーションへの関心

筆者は企業内教育において,営業・調査・コンサル・商品開発など,事業全般に携わってきたが,2018年よりワーケーション事業の開発に取組んでいる.その動機は,人材育成におけるニーズと育成方法に大きな変化を感じていたからである.

ニーズ面では,VUCAの時代といわれる現在のビジネス環境では,課題解決の正解が見通しにくい.また経営には,社会課題の解決と経済性の両輪で顧客価値を実現していくというイノベーションが求められる.これには一人のトップの強力なリーダーシップでは手に負えないテーマだ.こうしたイノベーションを継続して生み出している企業組織では、経営層だけではなく、従業員全員がリーダーシップを発揮できる環境整備が必要となる[i]

また育成面では,ビジネススクールのカリキュラムにおいて,Knowing(知識)からDoing(実践),Being(自身を知ること)への移行が見られ,ケースメソッドとフィールドメソッドの両立の取組がはじまっている[ii]

もうひとつは,地方創生の文脈である.人口減少が深刻化する地方自治体は「関係人口」の創出に注力している.関係人口とは「観光以上,移住未満」といわれ,都市部と地域を往来する人々のことで,地方創生政策の柱になっている[iii]

このようにワーケーションを,企業内教育の課題解決と関係人口創出の両面からの解決を実現できる可能性がある.

2.ワーケーションの類型とラーニング・ワーケーション

ワーケーションは、ワーク(Work)とバケーション(Vacation)を組み合わせた造語で,「リゾートや温泉地に滞在して仕事をする」「研修出張中でも業務を停滞させない」など、新しいワークスタイルとして注目を集めているが,定まった定義はない.

特に,本年の新型コロナウイルス感染症により、多くの企業やビジネスパーソンにテレワークが浸透,「オフィスでなくても仕事ができる」働き方が広がったことも,ワーケーションが注目を集めるきっかけになった.

一方、「仕事は会社で、休暇はプライベートで」という,公私を分けることがワークライフランスであり,働き方改革の前提と言われ,「仕事と休暇を一緒に楽しむことができるのか?」といった疑問も多く寄せられている.

そこで、新潟県妙高市に在住し,人材育成関連のコンサルティング業の傍ら,同地域でのワーケーション推進と,東京のIT企業でも複業をおこなう竹内義晴氏は,ワーケーションを「4つのタイプ」に分類(図1)し,個人と企業,仕事と休暇の関係からワーケーションについて整理している.ワーケーションを行う人が「個人」か「企業(従業員)」で、その内容は異なる。個人なら,比較的自由に仕事をしたり休暇を楽しんだりできるだろうし、従業員であれば,会社の許可などが必要になるからだ.[iv]

4つのワーケーションタイプの概要

①「休暇+個人型」:対象は比較的自由に動ける人とし,「旅をしながら働く」,いわゆる「フリーランスのノマドワーカー」のようなタイプだ。

②「仕事+個人型」:仕事かプライベートか,のように普段の生活を分けるよりも、日常的に仕事のことを考えることを好む.仕事に対しては自立しているのでワーケーションには「集中できる環境」を求める.一方,仕事の合間,気分転換に自然の中を散歩したり,畑仕事をしたりしながら「息抜きもしつつ仕事もする」.

③「休暇+企業型」は,ワーケーションを企業の視点から「福利厚生」のような形で位置づけると考える.「社員のリラックスやストレスを改善したい」という目的とし,一昔前の「社員旅行」のイメージに近いかもしれない.

④「仕事+企業型」も、ワーケーションを「仕事の延長」と考え,「能力開発,よい環境で働いてほしい」という企業の視点での考え方である。前章で述べた,人材育成課題の解決にその可能性を探る. オフィスから離れ,その地域の課題に触れることで学びを深める研修や,そこまで行かなくても,会社として金を出す以上「ただの休暇ではなく、実務に役立つような学びも深めてほしい」との期待がある.

当社が推進するワーケーションは④「仕事+企業型」の「社員の人材育成」の領域で事業開発に取組んでいる.ワーケーションを『リモートワークを活用し,いつもとは違う場所に滞在し,いつもの仕事は犠牲にせず,いつもはできないことをする』と定義している.これを「ラーニング・ワーケーション」と呼ぶ.

3.行政および自治体の期待

自治体の動き:2019年,和歌山県・長野県が中心となり,全国65自治体が参加し,「ワーケーション推進における自治体連合」が発足した.[v] 都市部から地方へ人の流れをつくり、地域活性化や企業の働き方改革につなげることを狙い、全国から65自治体が参加。ワーケーションの知名度向上や地域の魅力発信などの活動を本格化させた.

政府の動き:2020年,環境省は「令和2年度 国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進事業」として,国立公園等で遊び働くという新たなライフスタイルを示す目的に加え,感染リスクの少ない自然の中でクリエイティブに仕事ができる場として,大自然を有する国立公園等による心身のリフレッシュはもちろん、自粛により外遊びを控えていた子供達に国立公園等が『遊び場』としてアクティビティの提供が可能であることを発信し、社会の閉塞感の解消、旅行者増につなげ、地域経済の再生を目的に公募をおこなったところ,予算に対し数倍の応募があった.[vi]

4.和歌山県におけるフィールドワークと取組事例[vii] [viii]

筆者は,2018年から1年半に亘り,ラーニング・ワーケーションの可能性を検証すべく,和歌山県紀南地域においてフィールドワークをおこなった.要件は,「地域課題の解決につながること」「都市部企業の人々との交流が促進されること」「テレワークを実施すること」の3点とし,和歌山県および田辺市の協力のもと,いくつかの取組を試行した.下記,1つの事例を紹介する.


【事例】「首都圏企業の人材×地元事業家とのコラボによる地域課題の解決」[ix]

-日程:2019.10~2020.2(5ヶ月)-
場所(日数):東京(1日)~和歌山(3日)→東京(2日)→和歌山(3日)→和歌山(1日):計10日間.
-目的:都市部企業の社員と田辺市の若手事業家が協働し地域課題の解決に取組む.またその過程を通じてリーダーシップを涵養する.
-参加者:都市部企業からの研修参加者(14社,15人 中堅~比較的管理職の浅い方々)を3事業者のチームに分けた.

-実際の活動
東京と和歌山を往来しながらチーム活動を実施し、当該地域への理解を深めるとともに,協働活動を実施,それぞれのチーム目標の達成に取組んだ.

各チームのテーマは下記のとおり.

チーム① 地域農産品を使ったスィーツの開発とマーケティング
チーム② 地域の伝統工芸の職人を応援するための新サービスを考える
チーム③ 森を守る,虫害材(あかね材)の利活用と需要開拓

各チームとも初期は参加者と地域関係者との意思疎通がうまくいかず,活動が停滞する時期があったが,3ヶ月目ころからはコミュニケーションが活発になり,活動が前進した.

また,参加15名中12名が公私どちらかで継続的に当地域と関わっていきたいとアンケートに回答した.現在も,SNSなどを通じてコミュニケーションが取られているチームがあり,新たなプロジェクトの企画が生まれている.中には,具体的な事業や案件が始動している.

本プロジェクトを通じて,経歴,居住地域,業種職種を超え,「深いつながり」が関係人口の創出には効果的であることが確認できた.

【参考①】参加者アンケートコメントより

<自己のリーダーシップに関する特徴と課題を認識することができましたか?>
-試作では前面で動き、数字分析の分野では後方支援に回るなど、場面に応じた立ち回りを学ぶことができた。(食品・経営企画・40代)
-都度「内省」を意識し、チームの中での自分を相対比較して客観的に自分のふるまいを振り返ることができた。(飲料・人事・20代)
-異業種・地域実業家が入り混じったチームの中で、協働の実践を学ぶことができた。(通信・経営企画・40代)
-活動を通じて、チーム内で個々の特性をふまえた役割分担が自然と行えるようになっていった。(製造・新事業企画・40代)
-自分からの働きかけが少ない、受身になっている等の課題がよくわかった。(製造・新事業企画・30代)
-自ら意識してリーダーシップを認識することはあまりなかったが、チームメンバーとの今までの関わりから学ぶことができた。(調査・リサーチャー・20代)

【参考②】参加者の一人に半年後,振り返っていただいた (大手流通・人事)[x]

ケーススタディではない,何よりも生きた地域課題にふれることで、問題発見力や課題解決力を養うことができました.活動の過程で,メンバー間でアイディアを出し合い、課題解決の糸口を見い出そうとしましたが,意見の違いが多々ありましたが,否定や拒絶をせず相手の意見を聴き、自分の意見も主張する関係を構築しすることができました。
また,自分たちのチームに留まらず、3チーム間で情報共有や進捗を確認しあいました.参加者、事業家、行政、事務局のみなさんとの連帯感も強くなりました.
この経験で得られたものは,いつもと異なる環境・人との関わりで、固定概念・既成概念にとらわれない思考ができたことです.多様な価値観を認められるようになりました.
与えられた仕事でも,自身で判断し,意思決定し,行動する主体性を発揮することができるようになりました.
実際,これまで着手できかなかった,自身が担当する社員教育の改善をすすめています.また自組織の良さを再認識できましたし,自組織に取り入れたい、強化・向上させたい課題も明らかになりました.

●本事例のダイジェスト動画 https://youtu.be/f9hf9klgVLI

5.考察① リーダーシップと主体性の観点から

ラーニング・ワーケーションは,企業間でおこなう異業種交流型の研修に比べ,関係者の多様性がより大きいのが特徴である.

企業組織に所属経験のない人,ビジネスに対する考え方・目標の捉えかたが異なる人との関わりを持たねばならない.1.で述べた,権限によらない,ポジションについていなくても新たな取組を推進しリーダーシップを発揮している人の共通点は,「理想表現」「課題探究」「信頼構築」「連携開拓」の動きをしている.

ラーニング・ワーケーションでは,地域や多様な人々にとっての理想を言葉にし(理想表現),そのための真の課題を関係者と掘り下げ,試行錯誤し(課題探究),その前提として関係者と対話し(信頼構築),組織や地域の垣根を超えて,強みを活かしあえる連携を開拓して(連携開拓)動くという点で,通ずる.

6. まとめ② ラーニング・ワーケーションと越境学習の観点から

2.で記したワーケーションの類型に照らすと,「休暇型は旅行が主」で「仕事型は成長につながる体験が主」といえる.

よく旅行を,「非日常の体験」というが,ラーニング型ワーケーションは,「他日常を理解する」ことが旅行との違いだろう.他の日常を理解するということは,主体となる人が相互に分かり合えないことを認め,自分の解釈の枠組みを柔軟にし(ナラティブ),他者の立場に移ってこちらを見るようなものである.それが「深い対話」を促進する[xi]

そして,本業とはあまり関連ない離れた領域(複数の実践共同体)に参加し,そこで何らかの価値を生みつつ,そこで得た情報知識を本業にも生かすことで,自己の成長も実感する.そのために,多様な価値観やアイデンティティを受容し統合するナレッジ・ブローカーの育成する「越境学習」[xii]が,ラーニング・ワーケーションがめざすものと考える.

7.ラーニング・ワーケーションの普及にむけて

多くの企業から,「公私の区別を自己管理できるのか」「ほうんとうに生産性が向上するのか」という懸念を聞く.一方,経験者からは,「仕事に集中できた」「主体性が増した」「視野が広がった」という意見がある.

これは,企業組織と個人との関係のあり方によるギャップだと思う.組織への依存意識の高い人と組織からの自立意識の高い人では,監督者から物理的に離れた環境下での自己管理の発揮状況に差が出るだろう.

ワーケーションは,誰にでも参加機会があるものの,その機会を活用できるかどうかは,結局のところ個人の個人の主体性の如何にかかっているといえよう.

【JMAMのラーニング・ワーケーションサービスのご紹介】

here there(会員制、1年間の越境学習プログラム)
https://herethere.jp/

ことこらぼ(プロジェクトベースの、地域事業者と協働する越境学習プログラム)
https://hatarakikata.design/koto-collabo/

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※参考資料


[i] 館野泰一・堀尾志保「リーダーシップ研究の変遷と新潮流」2019,同著「これからのリーダーシップ」2020,共に日本能率協会マネジメントセンター

[ii] 山崎繭加著,竹内弘高監修,ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか,ダイヤモンド社,2016年

[iii] 総務省 関係人口ポータルサイト https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html

[iv] 竹内義弘 妙高ワーケーションセンター
 https://myoko-workation.jp/four-types-of-workation 2020

[v] 「ワーケーション」推進本格化 自治体連合が発足 2019年11月18日 JIJI.com https://www.jiji.com/jc/article?k=2019111800121&g=pol

[vi] 環境省,令和2年度補正予算(案) 国立・国定公園でのワーケーションの推進http://www.env.go.jp/nature/2020/04/07/%20http:/pwcms.env.go.jp/nature/np/ryokakuzei00/index.html%20/mat09-1.pdf

[ix] 総務省関係人口ポータルサイトhttps://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/model_detail/r01_33_wakayamaken.html

[x] 『なぜ”地域で学ぶ” ワーケーションが求められるのか ~4つの地域から発信する、新しい生活様式下の、新しい学び~』2020年7月16日(JMAM主催)

[xi] 宇田川元一「他者と働く-「わかりあえなさ」から始める組織論 」2019(NewsPicksパブリッシング)

[xii] 石山 恒貴 『越境的学習のメカニズム―実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像―』福村出版 2018 年