ワーケーション考察

ワーケーション導入時に企業が注意すべきポイント

あべ社労士事務所 代表 社会保険労務士安部 敏志さん

ワーケーションとは、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、国内外のリゾート地、帰省先、地方など日常生活と別の場所で仕事をすることです。職場以外の帰省先や旅先でも仕事をするという新たな働き方により、早朝や夕方以降の時間を社員が自由に過ごすことができ、また、旅行の機会を増やし家族と過ごす時間が増えることも期待されます。

欧米では数年前から話題になっていた考え方ですが、日本では2017年7月に日本航空株式会社(JAL)がテレワークの一環としてワーケーションの導入を発表し、大きな話題となりました。その後の同社の報告によると、2017年度夏期は11名、2018年度夏期は78名(上期総計91名)と年々利用者が増加し、利用者の満足度も高いようです※1。 このようにワーケーションは、会社・社員双方にとってメリットのある制度といえますが、帰省先や旅先など就業場所が離れていても、仕事である以上、テレワークと同様に労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働法令が当然に適用されるため、導入・運用時には通常の勤務形態と異なる特別な注意点もあります。ここでは、①適切な年次有給休暇の運用、②労働時間の把握方法、③労災保険給付の適用範囲という3つの点から解説したいと思います。

適切な年次有給休暇の運用

まず、ワーケーションは、就業場所は違えども「仕事」であり、「休暇」ではないということです。一般的なテレワークと比較しても、仕事と休暇の明確な区別が難しい場所で働くことになります。

年次有給休暇の趣旨は、賃金の減収を伴うことなく、労働義務の免除を受けるものですが、ワーケーションの導入により、「休暇中でも社員に仕事をさせることができる」と勘違いしてはいけません。2008年の労働基準法改正により、労使協定を締結した場合には、年5日の範囲内で、時間単位による年次有給休暇の付与が可能となりましたが、年次有給休暇は、本来1日単位での取得が原則です。

例えば、「子どもと一緒に帰省して実家にいるが、日中のほとんどの時間は仕事をしている」といった場合、あくまで勤務場所が帰省先に変わるだけで100%仕事をしていることなります。また、「旅先で日中は観光しているが、夕食後から就寝前までの間だけ仕事をしている」といった、旅行先の1日の時間の中で仕事と休暇が混在する場合であれば、時間単位の年次有給休暇の利用に該当するため、年5日の範囲内という法規制の制約を受けます。こうした場合、労働時間と私的な時間の明確な区別、時間単位の有給休暇の適切な運用が必要となります。 さて、以下はJALのワーケーション説明会におけるNGケース・OKケースの例※2です。実際はもっと細かく説明されていると思いますが、会社はワーケーションを導入する場合、どのような働き方であれば認めるのか、その際、仕事と休暇がどのような配分になるのかといった利用方法のルールを明確にしておく必要があります。

適正な労働時間の状況把握

労働安全衛生法の改正により、2019年4月から、管理職や裁量労働制が適用される労働者を含めたすべての労働者の労働時間の状況把握が義務付けられています(ただし、高度プロフェッショナル制度の適用者は除外)。

ワーケーションの場合、会社を離れた勤務となるため、労働時間管理が困難であるとの考え方から、「事業場外労働のみなし労働時間制(以下「みなし労働時間制」という)」の適用を検討する会社も多いかもしれませんが、みなし労働時間制の適用者も労働時間の状況把握義務の対象に入っている点には注意してください。

また、労働時間の状況把握は、原則として客観的な方法によるとされており、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」には労働者の自己申告による方法が認められています。ただし、直行直帰に関する行政解釈では「事業場外から社内システムにアクセスすることが可能な場合は客観的な方法による労働時間の状況を把握できる」と示されていることから、これを踏まえると、ワーケーション、またはみなし労働時間制であるから、労働時間の状況把握は自己申告による方法で良いとは限らず、ワーケーション中に社内システムへのアクセスを認めている場合は客観的な方法による必要があることになります。

労災保険給付の適用範囲

ワーケーションの場合、帰省先や旅先といった日常生活からも離れた場所で気が緩みがちになるため、事故などの安全衛生面で従業員への注意喚起が必要になります。

業務上の災害については労災保険給付の対象となりますが、「私的行為」が原因であるものは、業務上の災害とはなりません。

前述のとおり、ワーケーションにおいては、仕事と休暇の明確な区別、労働時間と私的な時間の明確な区別を行う法的義務があります。さらに、この区別は、従業員が怪我をした場合に大きな問題となります。実際に従業員が病院に行ったときに、健康保険または労災保険のどちらを利用するのかという判断に関係しますし、安易に健康保険を利用してしまえば会社は労災かくしを疑われ、従業員は自己負担を求められます。

このようにワーケーションは仕事と休暇の組み合わせによるメリットもある一方で、組み合わせであるが故に、通常は生じないような労務管理が必要となります。しかし、人事労務担当者にとっては、社員の多様な働き方をサポートする制度を自由に設計できる楽しさもあると思います。ワーケーションのような新しい制度が今後さらに浸透していくことを願ってやみません。

※1:『仕事+休暇=「ワーケーション」、JALが実証事業報告会を実施』(トラベル Watch)
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1167936.html
※2:『ビジネスガイド』2018年2月号(日本法令)

今回ご協力いただいた方

あべ社労士事務所 代表 社会保険労務士安部 敏志さん

https://sr-abe.jp/

大学卒業後、国家公務員I種職員として厚生労働省に入省。労働基準法や労働安全衛生法を所管する労働基準局や在シンガポール日本国大使館での外交官勤務を経て、長野労働局監督課長を最後に退職。現在は福岡県を拠点に中小企業の人事労務を担当する管理職の育成に従事。